バルボンさん不安な胸の内 

 「球団減るとは思わなんだ」

 再編問題で揺れ動くプロ野球界。将来のプロ野球の姿を模索する渦は、ひとりのキューバ人の運命にも大きな波紋を呼んでいる。オリックス球団職員のロベルト・バルボンさん(71)。かつて阪急ブレーブス(現オリックス)で俊足巧打の内野手として三年連続盗塁王を獲得するなど活躍。引退後、流暢な大阪弁を駆使した通訳や解説、野球指導で親しまれた。来日五十年目。いまも少年野球の指導に情熱を傾けているチコさん(愛称)の胸の内は_。
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 オリックスで少年野球指導  71歳「1年でも長く」
 
 半世紀もの間、日本球界を見続けていたバルボンさんにとっても、今回の騒動は予想外の出来事だった。
 「人気の巨人戦が欲しいパ・リーグは、何年か前からセ・リーグとの交流試合を求めていた。それは知っていたが、パの球団が減ることになるとは思わなんだ」
 阪急と近鉄で昭和三十年から昭和四十年までプレーしたバルボンさん。現役引退後、外国人初の野球解説者や通訳を務めた。昭和六十三年には阪急のオリックスへの身売りも経験している。その後は「オリックス少年野球教室」の校長として、いまも神戸市を中心に兵庫県全域のチームを対象に子供たちの指導にあたっている。
 オリックスと近鉄の合併がオーナー会議で承認され、新しい球団名は「オリックス・バファローズ」となることが発表されているが、新球団のファンのターゲットが大阪か神戸かも定かではない。またオリックスの宮内義彦オーナーは球団職員の身分保証を打ち出しているが、「今後どうなるのか。わからへん」という不安はむしろ当然だろう。
 可能性がある来季のパ・リーグ五球団制については否定的な受け止め方をしている。昭和三十二年、阪急の選手としてパ・リーグ七球団制でプレーした。そのとき「球団数が奇数では三日続けて試合がないことが多く、実戦のカンが鈍った」とスケジュール面での弊害を体験しているからだ。
 甲子園球場から歩いて五分の西宮市内に住み、日本人妻の妙子さん(72)、英語の先生をしているマリアさん(41)と三人暮らし。一九五九年(昭和三十四年)にキューバ革命が起こり、来日十五年目に日本の永住権を取得した。国籍はキューバのままだが帰国する気はない。十二人兄弟の末っ子。兄弟はすべて他界している。
 七十歳を過ぎたいまも、まだ体力には自信がある。子供たちに手本を示す実技指導に備え、ランニングなどのトレーニングを怠らない。野球教室では自らノックを受け、打撃練習の投手もつとめているという。
 「自分から野球を取ったら、何も残らへん」とバルボンさん。「家でゴロゴロしていたら、女房に怒られっ放しや」と笑いながら、「一年でも長く、好きな野球の仕事に携わりたいわな」と大阪弁でしんみり語る。
 まだ流動的な部分を残している球界再編。野球を愛し、日本を愛するキューバ人の思いが、球界上層部に届くことはあるのだろうか。


(04.09.15) 産経新聞