・・ 女性運動部記者 ・・

嶋田知加子(産経新聞夕刊「編集余話」連載)
女性運動部記者1 (5月6日)
 女性運動部記者といわれても、今の世の中にはゴマンといるわけで「だから何なんだ」と思われる人も多いと思う。だが、大阪本社の運動部は十年ぶりのことらしく、東京からやってきたダンディーな部長も、どう扱ったらいいものか随分悩んだらしい。
 で、担当することになったのが、プロ野球のオリックス。スポーツは野球ルール以外すべてもどかしいという事情もあったのだが、それでも球場には年一、二回足を運べばいい方。しかもビールをグビグビ。あの雰囲気に酔いにいくのが目的だった。これで戸惑わないわけがないでしょうが。 
女性運動部記者3 (5月8日)
 プロ野球のオリックスは勝率五割を行ったり来たり。でも、これは画期的なことらしい。昨季は監督の解任劇もあり二年連続最下位。そんな現実を見てきた記者が口をそろえて「今年は違う」と言い切るのだから、期待していいのだろう。
 二年半ぶりに貯金ができた三月二十九日の試合後は、記者席が沸きに沸いた。「そんなん書くのやめてよ」という球団関係者の声も聞こえたが、翌日の新聞のほどんどは「記念すべき貯金1」がデカデカと載った。
 評論家の予想は最下位か、せいぜい五位止まりだが、その評価、何としても覆してほしい。
女性運動部記者4 (5月10日)
 プロ野球オリックスの本拠地、神戸のヤフーBB球場は、青空の下に青々とした天然芝グラウンド。「打球の転がり方が独特」という声もあるが、選手の評判はすこぶるいい。12球団の球場で唯一、内外野ともに天然芝というのが評価されているのだろう。
 人工芝のドームを本拠地に持つ某球団のベテラン選手は、「足に負担がかかる、うちの球場は最悪だ」と嘆いていた。
 この天然芝を求めて今季、ダイエーから移籍してきたのが村松有人外野手だ。「けがを恐れず思いきったプレーができる」が口癖だが、今やチームの核弾頭である。
女性運動部記者5 (5月11日)
 体力だけが自慢だったのに、風邪薬を手放せなくなった。言うまでもなく、プロ野球選手は体が資本。人生をかけて勝負しているのだから、こちらの不注意で感染させたらえらいことだ。これにはとにかく気をつかう。
 なのに、プロ野球オリックスの担当になって三ヶ月、出張の度に三回も風邪をひいてしまった。ホテルの室温調整の失敗が原因。デスクには「単なる不摂生」と言われそうだが、移動の多い中での体調管理がいかに難しいか痛感した。選手はそんな環境で毎日試合をしているのだからほんと恐れ入る。
女性運動部記者6 (5月12日)
 プロ野球オリックスの担当記者になって「パ・リーグだから札幌に福岡、神戸…。食べ物のおいしいトコばかりでいいやん」とよくいわれる。
 確かに楽しみのひとつだ。東日本の遠征には行かないこともあるが、二月の宮古島では泡盛を、福岡では新鮮な魚に舌鼓をうった。おかげで体重増加のおまけもついたが、飲みに行く機会はめっぽう増えた。
 実は自分は結構いけるクチと思っていた。が、周りの記者はビールを水のように飲む人や、焼酎やウイスキーはロックでないとダメ、とか。この世界の酒豪はケタ違いです。
女性運動部記者7 (5月13日)
 プロ野球選手やコーチには単身赴任者が多い。オリックスでは伊原春樹監督をはじめ、コーチ三人に、山崎武司内野手、金田政彦投手などがホテル住まいだ。
 「慣れてるからそんなに気にならないけど、ストレスはたまるね。自宅だと犬の散歩とか、子供と話をして気が紛れるけどホテルじゃ…」と鈴木康友コーチ。だが、その部屋はいつも掃除がされており、洗濯物も出すだけ。また、食事には不自由しないし、だれにも邪魔されない。
 「ああ言いながら、結構楽しんでいるみたいですよ」と球団関係者。出張先の私もそのうちのひとりです。
女性運動部記者8 (5月14日)
 プロ野球取材では日程が前もって分かるから、ホテルなどは早めに手配すればいい。が、横着モンゆえいつもバタバタ。開幕戦は福岡のホテルが取れず困った。「ラブホテルがあるよ。一人で泊まれる所もあるし、部屋も風呂も広い」とある記者。まさに最後の手段。
 が、球団はそうはいかない。サーパス神戸のマネージャーだった熊谷泰充さん。移動の手配では「三連戦なら予備日の四日目に合わせて予約する。日程通りこなせて改めて乗車変更。連休が重なると朝から取れるまで延々と窓口に並び直しましたよ」。チケット取るのも命がけだ。
女性運動部記者9 (5月15日)
 三年前、メッツ時代の新庄剛志外野手をちょっとだけ追い掛けていた。メジャーでは男女関係なく記者はロッカーに入って自由に取材できる。つまりそこは真っ裸の選手がゴロゴロ。それとなく裸とわかるとスーッと消える気遣いもしていた。
 日本のプロ野球ではロッカー取材はノー。で。そんな心配は全くない、はずだった。ところが、とある選手がベンチでズボンを下ろしてる!と、これが大きな勘違い。パンツと思ったのは単なるサポーター。げげんな顔で通りすぎていく選手。いい年して、独り勝手な思い込みにトホホ…。
女性運動部記者10 (5月17日)
 プロ野球オリックスのヤフーBB球場で、驚いたのは親子連れが本当に多いこと。少年はもちろん、ようやく歩けるようになった女の子まで。十五日は「オールドボールゲーム」なるイベントで阪急時代の懐かしい映像や音楽も流れた。三世代が懐かしく楽しく。こんな工夫は他にはそうないだろう。
 球場DJもそう。十二球団唯一の男性。スタジアムナビゲーターの谷口正明さんは三十一歳と若いが「五十、六十歳ぐらいの渋めの落ち着いたDJを心がけている」そうだ。
 野球好きでもそうでなくても、ここには素直に童心にかえれるものがある。
女性運動部記者11 (5月18日)
 プロ野球オリックスのヤフーBB球場では試合中に歌手の前川清さんが歌う「そして神戸」が流れる。「横浜スタジアムでのオープン戦で『ブルー・ライト・ヨコハマ』が流れているのを聞いた伊原監督が、「神戸が本拠地ということをファンに意識付けるために『神戸のつく歌はないのか』と。それで採用しました」と大西英治広報課長。
 本当はもう一つ「神戸」というタイトルのものもあったが、一度流してみたら「何だ?あれは」と某コーチ。この一言で前者に決まった。で、その評判。「なんか、まーったりしてる」と某主力選手。た、確かに…。
女性運動部記者12 (5月19日)
 オリックスの本拠地ヤフーBB球場の名物イベントに、フラフープ・イン・ワンなるゲームがある。一個百円で購入したボールをスタンドからグラウンド内のフラフープめがけて投げ、その中に入れば商品をゲット。その商品が豪華なのだ。
 数年前には牛一頭という商品もあったそうだ。もらっても困るが「喜ばれてましたよ」と池見球場長。しかしキャンプ中に牛をプレゼントされたことのある某球団の選手は「あの姿を見たら食べられません」。そりゃ、グラウンドで活躍してもらうMVP賞の方がいいですよね。
女性運動部記者13 (5月20日)
 ベテラン記者の人に「明日雨なんですかあ?」と能天気に聞いてあきれられたことがある。プロ野球担当者にとって天気は重要。取材も大きく変わるからだ。十九日、ヤフーBB球場でのオリックス対西武は試合前イベントも実施されていたが、無情にも開始数分前に中止アナウンス。オリックスはこれで今季40試合消化で6試合目の中止。中止になった試合はシーズン終盤に回されるので後半の過密日程は必至。それが優勝を決める大一番になればいいが、消化試合だと…。球団首脳の悩みは尽きない。
女性運動部記者14 (5月21日)
 プロ野球オリックスのヤフーBB球場のパフォーマンスやイベントはいつも子供たちが主役だ。だが、所変われば品変わる。福岡ドームにある女子トイレに試合前、立ち寄ったときのこと。熱気ムンムンと思ったら、おなかを出し、短パンをはいた何十人もの若い女性が化粧を直したり、踊りのチェックをしたり…。彼女たちの正体はチアリーダーのようなパフォーマンスを見せる「ハリーズ」。おしりが今にもこぼれそうな短パンで足を上げるもんだから、女の私でもドキドキ。こんなセクシーシーン、ヤフーでは絶対見られない光景だ。
女性運動部記者15 (5月22日)
 プロ野球オリックスの担当になって、ヤフーBB球場の食べ物ショップ巡りが楽しみの一つになった。とにかく他球場に比べて種類も多くレベルが高い。食いしん坊の私はウフッ。人気メニューの一つがさぬきうどん。ボールパーク事業部の石料淳司主任の自信作だが、ソフト面充実化第一弾として飲食部門を任され、麺選びに悪戦苦闘。数ヶ月間に十数種の麺をひたすら食べ比べ、五キロ激太りしたとか。「しばらくは(うどんを)見るのも嫌だった」。その甲斐あって?味にうるさい記者のだれかが必ず食べている。
女性運動部記者16 (5月24日)
 プロ野球オリックスのヤフーBB球場には野菜ジュースなどを販売する球団直営店がある。残念ながら目下、売り上げ最下位を独走中だが、ここの焼きたてメロンパンは知られざる逸品と思っている。本物のメロン果汁が染みこませてあり、甘い香りがたまらない。一度に十六個しか焼けないためもあって二百円と高いが、十個、二十個と買っていくファンも。ちなみに健康ジュースは「妊婦さんがよく買いに来られます」とスタッフの幸田里美さん。野球場で飲むビールも最高だが、たまにはメロンパンと健康ジュースもいいかも。
女性運動部記者17 (5月25日)
 いつだったか取材に向かう途中、目の前のカップルの女性が突然倒れた。「大丈夫?」ととっさに声をかけたが、男性はオロオロ。女性が汗をかいていたのでとりあえず冷たいウーロン茶でほおを冷やし、持っていたファイルをうちわに。が、救急車を待つ間に女性がもうろうとしながら「寒い…」。あわてて男性のシャツを女性にかけた。プロ野球オリックスは「安心して野球を楽しんでほしい」と球団職員の約40人が救急救命士の資格を持っているそうだ。これほど心強い球場はそうないに違いない。
女性運動部記者18 (5月26日)
 今年のプロ野球オリックスの沖縄・宮古島でのキャンプ取材中、パソコンが機嫌を損ね原稿が送られずパニック状態に陥った。締め切り間際で真っ青になったばかりかデスクからは「もういいわ」と無情のコール。
 そういえば今やどの球団もインターネットのホームページや携帯サイトからの情報発信は当たり前になった。バージョンアップ著しいのは「親会社のメンツにかかわりますから」とオリックス球団広報。結局、デスクからは何のおとがめもなかったが、会社のメンツをつぶさない原稿を書くことを心掛けている。
女性運動部記者19 (5月27日)
 朝刊には早版と遅版がある。早版は近畿県外に輸送されるので締め切り時間も当然早い。ナイターの日にはその早版から読み物原稿が要求されるわけで戦々恐々。試合を見、スコアブックをつけながら原稿を書く。試合後はゲッソリだ。日々追われる私と違い、一ヶ月後を見据えて取材するのがオリックスの広報誌「ブルスポ」担当の後藤俊一さん。シーズン中は月一回の発行。掲載までにブランクがあるため「絶好調のときに取材した選手がいざ載る段階で調子を落としたりして…」。調子の維持の大変さを、つくづく思う毎日だそう。
女性運動部記者20 (5月28日)
 「最近のプロ野球選手は男前が多くなった」とか。特に女性ファンが多いのがダイエー。中でもムネリンこと川崎宗則内野手が人気急上昇中。先日の福岡ドーム。見学の30代女性ファンが片時もムネリンから目を離さない。そこへかわいいリポーターが彼を追いかけ、ご挨拶。その様子をにらみつけてたのを見てこっちがゾッ。オリックス旧広報誌「ブルーサンダー」を担当してた元女性記者女性記者も苦労したそう。「移動も選手と一緒。移動のバスの窓から見えないよう気をつけてたわ」。ちなみに私、どの女性ファンにも問題視?されてません…。
女性運動部記者21 (5月29日)
 パ・リーグは雨天中止でもない限り、月曜も試合がある。このマンデーパ・リーグ、「ベンチに戻ったら客席の携帯電話の音が聞こえてびっくりしたよ」(某選手)なんていう声もあるが、セ・リーグがない分注目されて紙面的にも余裕があるいい点も。が、日程はハード。金曜はナイターで土日は基本的にデーゲーム。日曜が遠征値での試合なら、すぐ移動して月曜にナイター。選手は疲れを癒す間もないのだから大変だ。昨年まで楽しみだった札幌遠征も「去年までは年一回でいい息抜きだったけど、こう多くちゃね」とは球団関係者。
女性運動部記者22 (5月31日)
 オリックスにはチームで決めたユニークなファンサービスがある。「全員で戦う意識を持たせたい」と、ミスや凡プレーが出たらベンチ入り全ナインから一律1000円で罰金を徴収。それでヤフーBB球場の年間特別席を200万円で購入してファンに贈ろうというのだ。罰金を取るチームは結構あるがそれをファンに還元するのは珍しい。で、どうなったか関係者に聞いてみた。「えっ、知らないです。そんなこと聞けないですよ!」。最近元気のないチーム。「200万は軽くクリアしそう」の声が聞こえているのがちょっと心配。
女性運動部記者23 (6月1日)
 プロ野球の球団本拠地なら、どこにでもあるオーロラビジョン。中でもオリックス・ヤフーBBスタジアムは凝っている。例えば打席に立つ選手紹介で映る写真。ただ顔写真を見せるだけではなく様々なカットから撮った写真を組みこんだり、プレーシーンも見せたり。「インプレー中は映せないけど、ビジョンが真っ暗の状態をなくそうと思っているんです」とは球団ビジュアルプロデューサーの大前一樹さん。文字なども含めるとパターンはなんと200以上。映し出されている時間も12球団一長いそうだ。選手をアピールしようという球団の熱意が感じられる。
女性運動部記者24 (6月2日)
 プロ野球選手の話を聞いていて「いかに妻に救われたか」とか「妻の協力なしでは達成できなかった」とか、周囲に話すときもストレートに気持ちを表す選手が多いのに驚いたことがある。で、オリックス一の愛妻家はだれか聞いてみた。「そりゃ谷(佳知外野手)でしょう」と某スタッフ。「夫婦共演のテレビCM。亮子夫人のあの幸せそうな笑顔。谷がいかに奥さん思いなのかが手にとるように分かるでしょ」。そういえば、CMをたまたま一緒に見た「30代、子ナシ、未婚」の友人が、同じ立場の私の横で打ちひしがれていたっけ。
女性運動部記者25 (6月3日)
 プロ野球各球団のマスコット。ひいき目からかオリックスのネッピーとリプシーが一番かわいらしい。ネッピーは海神ネプチューンの子供、リプシーは海賊の娘だとか。91年にブレーブス時代のブレイビーからバトンタッチされた。それにしてもよく働く。試合前のイベントはもちろん、試合中も試合後もグラウンドに出てきては愛嬌を振りまいている。で、着ぐるみの中の人への取材をお願いしたら「ネッピーとリプシーの中に人は入っていません。あれは、ネッピーとリプシーなんです!」。
女性運動部記者26 (6月4日)
 一日のロッテ戦で自分のあまりの不甲斐ない投球に腹を立て、ベンチを殴打し両手の第五中手骨を骨折してしまった福岡ダイエー杉内俊哉投手。試合は負け、城島健司捕手1000安打達成ニュースもかすませた。球団はその“自損”の骨折に厳しい罰金を科す方針だ。城島捕手も「利き手は野球選手という職業に最も大切なもの」と話していた。利き手だけじゃなく、バットやグラブも大事な商売道具。どの選手も丹念に手入れする。もちろん、他人のグラブに勝手に手を通すなどもってのほか。道具に触れるときは、必ず断りを入れるという。さすがプロである。
女性運動部記者27 (6月5日)
 いま大リーグで注目のゼネラルマネージャー(GM)といえばアスレチックスのビリー・ビーン氏。ローリスクハイリターン経営でチームを四年連続プレーオフに進出させた手腕を描いた本「マネー・ボール」が話題だ。日本プロ野球界でそのポストに就いているのがオリックスの中村勝広GM。チーム改革に忙しい日々をおくっているが先日、娘さんの結婚披露宴では泣きっ放しの花嫁の父だったそうだ。パ・リーグ在阪球団は深刻な経営難。中村GMの手腕でそんな問題を吹き飛ばすような強いチームにしてほしい、と担当記者の一人として願っている。   (おわり)
         
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