【1】選手との距離縮めた「フィールドシート」
                                                                  >>Next
親しまれる球場作りを

 グラウンドまでせりだしたスタンド。観客席とフィールドの間には、防球ネットもない。目の前で選手たちがキャッチボールを始めると、グラブにおさまるボールの音や、踏み締めたスパイクから上がる砂ぼこりが直接、座席まで伝わってくる。最前列には色紙やカメラを手にしたファンらが、さらに選手に近づこうと声をかける。
 31日から「YAHOO!BBスタジアム」に名前が変わるプロ野球オリックス・ブルーウェーブの本拠地「グリーンスタジアム神戸」(神戸市須磨区)。リニューアルされたフィールドシートでの光景だ。
 米大リーグの球場を意識して、1,3塁側のベンチ横に計約570席が設置された。すでに三分の二の座席が年間予約で完売し、残りの三分の一は当日売り(3200円)になるという。
 神戸市須磨区の会社員、深沢直史さん(55)は「こんな間近で選手を見られるのは、野球ファンにはこたえられない」。
 京都市南区から駆けつけた高校生、津田慎太郎君(17)も「この臨場感はすごいですね。ファウルボールだけでなく、送球も飛んできそうな気がします」と笑顔で話す。
 ファウルグラウンドが狭くなるため、選手たちにとって守りにくくなるとの指摘もあるが、ファンらの間ではかなり好評のようだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 平成3年にオリックスが神戸に本拠地を移してから、13回目のシーズン。球団は移転当初から「市民球団」を名乗り、地域交流に重点を置いた活動を行ってきた。12年3月には「子供・ファミリーのための清潔・安全・快適な空間の提供」というコンセプトのもと、「ボールパーク宣言」をし、内野グラウンドの天然芝化などの球場改革を行ってきた。その最大の目玉になるのがフィールドシートだ。
 球団ボールパーク事業部の岡村義和さんは「陽気なベースボールが、おしゃれでスマートに観戦できる球場を目指しています」と話す。
 昨年4月には、球場の管理運営を神戸市から委託されるようになり、地域住民らにグラウンドを開放する「グリーンスタジアム神戸で遊ぼう!」などのイベントも人気を集めているという。
 その後、神戸市がソフトバンクグループに球場命名権を売却、今シーズンから「YAHOO!BBスタジアム」に名称が変更される。
 31日夜には、同球場の開幕カードとなる西武ライオンズ戦が行われ、球場の命名式に続いてオリックスの谷佳知選手の婚約者で「YAWARAちゃん」こと女子柔道の田村亮子選手が始球式を行う。4月2日までの3連戦は、内外野自由席が無料開放される。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 同じ31日、大阪近鉄バファローズの本拠地「大阪ドーム」(大阪市西区)も「サラリーマンデー」を実施する。月曜日に行われる試合を対象にしており、15歳以上の社会人は外野自由席(通常1200円)が500円で入場できる。今シーズンで3年目を迎え、昨年は11回で平均約2千人が利用した。
 このほか、大阪市民や府民に外野自由席を無料開放する「大阪市民デー」「大阪府民デー」も年1回のペースで開催しており、昨年は市民デーに約1万千人、府民デーに約9千人が入場した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 その背景には年々、厳しさを増す観客動員の動向が見え隠れする。
 オリックスは平成7年、阪神大震災を乗り越えて悲願のリーグ制覇を果たした際、179万6千人まで伸ばした。
一方、近鉄もリーグ制覇した13年、159万3千人を集めたが、それでも阪神タイガースの観客動員数には遠く及ばなかった。
 近鉄は昨秋、運営する会社名を「大阪バファローズ」に改称した。球団社長室の森厚雄室長は「市民球団化への一つの手段として改称した。地元に愛される球団を目指したい」と説明する。
 一方、オリックスは看板選手だったイチロー選手の米メジャー移籍などの影響で、昨年は109万9千人にまで激減している。「阪神と同じことをやっていてはダメだと思います」と、岡村さんは危機感を強める。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 プロ野球の公式戦が開幕した。近年、観客動員数は減少傾向にあり、野球離れを指摘する関係者も少なくない。そんな中、オリックス・ブルーウェーブと近鉄バファローズは「市民球団」を掲げ、地域に目指した活動を続けている。阪神タイガースばかりが注目される関西で、両球団のファン獲得の動きを追う。


(03.3.31) 産経新聞 [格清政典]