【1】 球界12年 言わせてもらいます
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オリックス前代表 井箟重慶さん
聞き手 村上敏彦記者

日本のプロ野球 ートップに素人が多い

プロ野球の球団首脳といえば、そのほとんどを親会社からの出向組が占めている。そんな中で外部からヘッドハンティングのかたちで球界に飛び込み、球団経営と球界改革に心血を注いだのがオリックス前代表の井箟重慶さん。弱かったチームを優勝に導く一方、イチローらの大リーグ挑戦の道を開くポスティング(入札)制の実現にも尽力した。異色の球団首脳の挑戦と挫折の十二年、そして衰えない野球への重いと情熱は_。

 村上: 井箟さんは野球に明るく、しかも大リーグ通ですが、これは石油マンとして米国滞在中に培われたんですね。

 井箟: 子供のころから野球が好きだったので、アメリカに行ってからは自然の流れで大リーグへの関心が一段と強くなりました。暇を見つけては(観戦で)球場にもよく通いましたよ。丸善石油時代、野球部のマネージャーをした関係でプロ野球関係者との接点もありました。その線でジム・マーシャル(元中日)など日本でプレーして米国に帰国した人たちとの触れ合いもありました。

 村上: オリックスの代表を12年間務められましたが、その間、日本の球団について感じられたことは。

 井箟: いちばん強く感じたのはフロントのトップが野球に関して素人ということですね。球団社長、代表のほとんどが親会社からの出向組。数年前、パ・リーグの球団で就任間もない社長(代表兼任)がフォークボールに空振りの三振を繰り返す外国人選手を見て、フロント幹部に社長指令を出したんです。「あの球はボール球だから、絶対に振らないようにコーチを通じて本人に伝えなさい」と。

 村上: 打者が空振りするフォークボールは、ストライクゾーンから落ちる場合が多いんじゃないですか。

 井箟: その通りです。一流投手のフォークボールには、三振を喫してもやむを得ない面がある。まして、その外国人選手は日本でのプレーが長く、球界を代表する強打者でした。打ってナンボの意識も強いし「振るな」ということ自体、無理な話。これは一例ですが、何かにつけて見当違いの口出しで命令が出されたらチーム全体が混乱してしまいますよ。

 村上: そんな現状を変えるには、どうしたらいいと思われますか。

 井箟: 大リーグにはチームの強化計画から選手管理まで全般を掌握するゼネラルマネージャー(GM)がいる。日本にはそんな専門家システムがない。球団をしろうとに任せる親会社の感覚が変わらない限り、せめて社長や代表の在任期間を4,5年からもっと長くするしかない。そうすれば腰を落ち着けて勉強できるでしょう。


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[いのう・しげよし] 昭和10年3月15日生まれ。岐阜県出身。上智大学外国語学部卒。34年、丸善石油入社。上智大学野球部監督も務め、44年から5年間、丸善石油野球部マネージャー。52年、米国丸善石油(現米国コスモ石油)に出向し、63年、副社長で退社。
新生オリックス球団の幹部一般公募に応募し、平成元年、球団常務で入社。翌年、代表就任。7年、チームを初優勝に導き、8年には日本一を達成。12年シーズン終了後に辞任し、昨年4月から関西国際大教授。妻レイ子さんと2女。趣味は本場仕込みのジャズ。


(03.8.25) 産経新聞