【2】 球界12年 言わせてもらいます
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オリックス前代表 井箟重慶さん
聞き手 村上敏彦記者

関西の野球ファン ー経営で厚い阪神のカベ

 村上: 子供の頃から野球が好きだったと聞いていますが、個人的なプロ野球ファンとしては。

 井箟: 生まれ育ったのが岐阜県。山村ですが、ドラゴンズ一色の土地柄でもあり、大の中日ファンでした。小学五年生のとき、父親にグローブを買ってもらい野球部に入りました。球界屈指の強打者だった西沢道夫選手のサインは宝物でしたね。多治見工から阪急にNY入団した梶本隆夫(現解説者)とは同郷で同学年。中学時代からすごい左腕投手として地元で鳴り響き、私も存在を知っていました。

 村上: 高校、大学は東京だったんですね。

 井箟: 医者の家系だったので、医学系の学校(慈恵高)へ進学したんですが、肺を患って医者の道はあきらめました。病気が治って上智大で野球部に入り、ポジションは遊撃手でした。力が伴わず二年からマネージャー。選手としての実績はゼロに等しいものでした。

 村上: 関西住まいは15年前、球団フロント幹部でオリックス入りされてからですが、関西の野球ファンについてはどんな印象ですか。

 井箟: 阪神ファンが圧倒的に多く、それも熱狂的ということを痛感させられました。球団経営に携わる立場としても、阪神のカベは厚かった。オリックスが優勝しても観客動員では、下位をさまよい続ける阪神にかなわない。オリックスが強かったころ、私の周囲には阪神ファンでもオリックスを応援してくれる人が結構いたんです。それらの人たちも「阪神が強くなったら、また阪神ファンに戻る」という人たちが多いんだから。

 村上: 関西で野球ファンの大半を占める阪神ファンの心理については、どんな受け止め方を。

 井箟: 関東への強い対抗意識のあらわれと思います。その昔は関西にあった都が東京へ移り、大きな会社もほとんどが東京へ行ってしまった。阪神ファンには怒られるかも知れないが、阪神の応援はコンプレックスのハケ口。特に根っからの関西人は、巨人に勝つことが東京に勝った気分になる。こういう心理状態は親から子に引き継がれ、自然に阪神ファンを定着させているという図式じゃないですか。

 村上:そんな関西人のこだわりを野球以外で感じたことがありますか。

 井箟: 数年前、チームが飛行機で移動中のことでした。関西弁で乗客に対応していたスチュワーデスに対し、関西人と思われる中年男性の乗客が「あんたはなんで関西弁でしゃべるんや」と尋ねたんです。スチュワーデスが、関西の生まれ育ちだから言葉遣いを変えるつもりはないと伝えると、中年男性は「あんたはエライ」と褒めたんですよ。関西人の誇りと魂を垣間見たような気がしましたね。
 
 村上: 関西人の魂のより所のような阪神は今、ペナントレースを独走しています。

 井箟: 長い間、ビリのシーズンが続きフロントもそれなりの苦労、努力をしたのが実ったんだと思います。他の球団が弱すぎる感もあり、星野監督には内心、物足りない面もあるんじゃないかと推察しているんですが。関西としてはパ・リーグで近鉄が優勝して阪神との日本一決戦が最高のかたちでしょう。


(03.8.26) 産経新聞