【3】 球界12年 言わせてもらいます
                                                                  >>Next

オリックス前代表 井箟重慶さん
聞き手 村上敏彦記者

コミッショナーに監督経験者を

 村上: プロ野球はセ、パ両リーグで構成されているが、共存共栄の精神がないのが実情ですね。

 井箟: (昭和25年に)二リーグに分裂して半世紀を過ぎ、いまだに両リーグの対抗意識が強い。セ・リーグの関係者は連盟のトップから職員、審判も含めて自分たちがパ・リーグより格上と位置付けている。米国のように「プロ野球はひとつ」という感覚がないのは残念なことです。

 村上: なぜ、狭い考え方から抜け出せないのでしょうか。

 井箟: 日本のプロ野球は創設当初から競争の原理だけで動かされ、共存の精神はなおざりにされてきた。球団は親会社の宣伝媒体で赤字覚悟の意識が強く、経営感覚が薄いせいでしょう。各球団が勝つことのみに集中し、何もかも現場サイドの要求を受け入れてきた。ほとんどが不健全な経営実態でも、それが当たり前のように受け止められている。プロスポーツ企業として業界全体の繁栄を考えないと、プロ野球は成り立たなくなりますね。

 村上: コミッショナー、両リーグ会長など野球機構を代表する要職の人選については。

 井箟: 機構の頂点に立つコミッショナーは連盟会長と球団を代表する役員(社長、代表など)で構成する実行委員会が選任する仕組みになっているが、実際には談合で選ばれている。球界の盟主と呼ばれる一部球団の首脳が事前の話し合いで人選を進め、それを力ずくで他の球団に押しつけているのが実態。これでは球界全体のための指導力、調整力は発揮できない。会長の選任についても、野球の理解度よりも肩書き重視の傾向が強く、多くは期待できない。

 村上: 最近、具体的な事例で疑問を感じたことがありますか。

 井箟: パ・リーグが来年からプレーオフ(シーズン二位と三位のチームが戦い、その勝者が一位と日本シリーズ出場権をかけて対戦する)制度を導入するというが、これはおかしい。消化試合を減らすなどリーグ活性化のメリットがあるにしても、両リーグが違う方式でチャンピオンを決め、日本一を争うなんてバカげている。野球に明るい人からは出てこない発想だと思いますよ。合理性と公平感を大事にする米国では考えられないやり方です。

 村上:そうなると、プロ野球経験者を野球機構のトップに起用する手がある。

 井箟: コミッショナーや両リーグ会長は、プロ野球の監督経験者から出てもいいと思うんです。たとえば、現場サイドが勝手な要求をしてきても、体験者としてブレーキをかけることもできますからね。ドラフト、FA(フリーエージェント)問題でも、説得力のある監督経験者が意見や提言をすれば、ヘタな反対はできないでしょう。
 
 村上: 具体的にはどんな人が適任と思いますか。

 井箟: 絶大な人気を誇る長嶋茂雄さんが適任者と思っていたが、巨人終身名誉監督の肩書きが付いてしまった。中立的な立場を考慮して王貞治さん(現ダイエー監督)や上田利治さん(現評論家)あたりが適任じゃないですか。経営面など事務的な面については補佐役をつけ、任せればいいんだから。


(03.8.27) 産経新聞