【4】 球界12年 言わせてもらいます
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オリックス前代表 井箟重慶さん
聞き手 村上敏彦記者

巨人がごり押し −FAやるべきでなかった

 村上: 移籍の自由を認めるフリーエージェント(FA)制の誕生から十年がたちましたが、オリックスは制度反対派の旗頭でした。

 井箟: この制度は各球団の奪い合いでFA選手の年俸がつり上がり、年俸の高騰は他の選手にも波及する。球団の経費拡大を招き、米国では失敗していたシステムですからね。制定当時、巨人以外の十一球団は反対の意向を示していた。結局、巨人のゴリ押しが通ったんです。

 村上: 巨人の言い分と他球団の反応はどうだったのですか。

 井箟: 巨人の代表(関本哲男氏)は「圧倒的に強い常勝チームがいれば(日本の)球界は栄える」と主張しましたね。人気と資金力で突出している球団らしい考え方ですよ。これに対し、当時の阪神の代表(沢田邦昭氏)が「巨人さんの考えは双葉山論ですね」と問いかけた。巨人の代表は「その通り」と答えたんです。

 村上: 双葉山といえば、戦前の相撲界で六十九連勝するなど無敵の強さを誇った大横綱でした。

 井箟: 巨人は双葉山と同じような磐石の強さをもくろんだことになるが、野球が面白くなる戦力均衡の必要性を否定したわけです。FAで大物選手を獲得すれば、さらわれた球団は痛い戦力ダウンを招く。これも巨人側が金で解決すればいいという論理を押し通した。相手球団が選手による補償を求めない場合は補償額を移籍する選手の旧球団での年俸の1.5倍にしたんです。

 村上: FAにこだわった巨人が昨シーズン後、松井にFA権を行使され、米大リーグ(ニューヨーク・ヤンキース)に逃げられた。これは皮肉ですね。

 井箟: 松井が出ていくなんて、巨人の首脳は夢にも思わなかったじゃないですか。ジャイアンツというブランドは絶対という自負心を持ち、現役引退後の保証を含めた破格の引き止め条件にも自身があったはず。球界を代表するスーパースターでもある松井の思い切った巨人退団はまさに画期的な行動。何もかも思い通りにしてきた巨人の威信が崩れるかたちになった。私に言わせれば、松井の決別は「表彰もの」ですよ。

 村上: 大リーグで活躍中の松井は別にしてFAによる移籍選手は期待を裏切る場合が多いが、その点については。

 井箟: FA選手をかき集めている巨人で言えば、西武からの清原、広島からの江藤などの例をみても、過去の実績のわりにはパッとしない。日本のプロ野球選手は27歳から28歳でピークを迎え、30歳を過ぎたら成績が下がる者が多い。プロ入り十年以上の選手は故障持ちも多い。そのあたりのからみをどう判断するのか。結局、即戦力欲しさのあまり、名前だけで獲る安易な補強が誤算を招いているということでしょう。
 
 村上: FA制の今後については、どのような見方を。

 井箟: 球団経営の立場からは、いまでもFAはやるべきではなかったと思っています。継続するのなら、需要と供給の経済原則に沿ったやり方にすべきでしょう。FA資格の取得が最短で九年だから資格取得者が少なく、必然的に獲得条件がつり上がる。取得期間を五年ぐらいに短くして資格取得者を増やせば、おのずと金のかからないFA補強が出来る。


(03.8.28) 産経新聞