【6】 球界12年 言わせてもらいます
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オリックス前代表 井箟重慶さん
聞き手 村上敏彦記者

TV放映権収入が皆無に近いパ

 村上: イチローがいたときのオリックスは強く、観客動員でも活気がありました。球団は潤ったという見方がありますが、実際はどうなんですか。

 井箟: 巨人の渡辺(恒雄)オーナーからは「オリックスはイチローで儲けた成金球団」なんてイヤミ発言もあったようですが、外部から見たほど儲かっていません。累積した赤字を解消するには、とても追いつかなかった。

 村上: 注目度が高まり、観客がたくさん入っても儲からないんですか。

 井箟: 最大の理由はテレビマネーの問題。すなわち、試合の放映権収入が少ないということですよ。観客が少々増えても、入場料の単価からして収入の増加はしれている。まとまった金になるのが(CATVを除く)地上波の放映料なんですが、セ・リーグはほぼ全試合が地上波付きなのに対し、パ・リーグは皆無に等しい。単発的に土曜日のデーゲームに組まれる程度ですからね。

 村上: 放映権収入はセ、パ両リーグでどれくらい違うんですか。

 井箟: セ・リーグの場合、各球団の放映料は巨人戦だけで十四、五億円はあるでしょう。巨人戦は一試合が一億円は下らないといわれ、これが本拠地主催で十四試合あるわけですから。パ・リーグ球団の放映権収入は、一試合が巨人戦の二十分の一にも届いていないはずですよ。一球団の年間総収入が二十億円とすれば、放映料は五パーセントに満たない球団が多いことになる。セ・リーグとは勝負になりませんよ。

 村上: パ・リーグのファン拡大につながる電波対策について、リーグ全体として具体的に力を入れたことは。

 井箟: 日本テレビを中心にしたネットでパ・リーグの試合を放映するシステムを作ろうとして、いろいろ交渉したが、結局ダメでした。巨人戦を断っても、他のカードを受け入れるのは中日が本拠地を構える名古屋の局だけだった。パ・リーグでゴールデンタイムの放映権を週に一回ぐらいの割合で借り切り、カードを公平に振り分けるやり方も交渉しました。これも最終的には話がまとまらなかった。

 村上: 試合放映が成立しない原因はどのあたりにあるんですか。

 井箟: テレビ局によると、ゴールデンタイムの番組の合間に流すスポット・コマーシャルの単価は視聴率で決まり、その額は番組全体の基準になる。試合放映の視聴率が低ければ、コマーシャル全体の収入が下がることになる。日ごろからパ・リーグの試合がブラウン管で流れないから茶の間の関心が薄い。こういう解釈をすれば、ニワトリとタマゴの論理だが、局側としては収入の減少につながる番組には応じられないということです。
 
 村上: 企業努力だけでは、どうにもならない状況というわけですね。

 井箟: パ・リーグは全球団が赤字。米国のように球界の首脳が全体の繁栄のために音頭を取れば、経営健全化の道も開けるが、いまの日本球界は共存共栄の意識が薄い。だが、巨人から出た松井の例をみても、選手やファンの目は世界にへ向いている。巨人だけ栄えれば、球界が発展するという考え方は狭い。スポーツ界は多様化も進んでおり、根本的な意識改革が必要な時期に来ていると思いますよ。


(03.8.30) 産経新聞