【7】 球界12年 言わせてもらいます
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オリックス前代表 井箟重慶さん
聞き手 村上敏彦記者

イチロー −マスコミ受け悪かったワケ

 村上: オリックスの黄金時代を支えたイチローのすごさは誰もが認めるところですが、マスコミ関係者には評判が
良くなかったのも事実ですね。

 井箟:それは彼の性格と個性の問題ですね。イチローは「自分は選手だから、ユニホームを着ているときは精一杯のファンサービスをするが、プライベートは別」という言い方をしていました。確かに試合中、投手交代の合間などには背面キャッチをしたりして、ファンを楽しませていました。マスコミの野球以外の質問を拒否していたのも、芸能人ではないという考え方の延長だったようです。

 村上: 職人肌という見方もできますが、球団の首脳としての受け止め方は。

 井箟: プロは人気商売の要素があるんだから、もう少しグラウンド外でもファンサービスを心がける必要があったと
思いますね。何億の金(給料)には選手としての技術だけでなく、人気の値段もついている。このあたりがマスコミ対応も柔軟な松井(ヤンキース)との違いでしょう。実力よりリップサービスが先行している感がある新庄(メッツ)と足して
二で割ればいいんじゃないですか。

 村上: 個性派のイチローは服装についてもこだわりがあったようですね。

 井箟: 自分のファッションもビジネスとプライベートを分けるタイプでした。イチローは表彰式にネクタイを締めないで
出席することがあり、関係者の間で疑問の声が出たんです。それを本人に伝えると「野球機構などの表彰は公式行事だが、それ以外でも上着は着用している。あとは自分の判断で好きな服装をしている」という返事でした。その理由は
「会社はボクの名前で宣伝をしているんだし、こっちも自由にさせてもらっていいはず」というものでした。それなりに理論付けた反論をしてきましたね。

 村上: イチローは電撃の結婚、挙式(1999年12月、米国)でも世間を驚かせました。球団の広報関係者は
「イチローらしい」と評していました。

 井箟: 服装と一緒でビジネス、プライベートに一線を引くスタイルのあらわれでしょう。自主性を尊重する代わり、責任は自分で取る_という親会社オリックスの主義もあって、結婚について球団の報告を義務づけることまではしていなかったんです。日ごろのマスコミの取材攻勢から結婚が事前に発覚したら大騒ぎになると思い、隠密に事を運んだのだと
思います。本社筋などから日本での結婚のお披露目を勧められて応じなかったのもイチローらしい頑固さですかね。

 村上: こうしてみると、イチローはマスコミの熱い視線や周囲の雑音が負担になっていたようですが、その点、米国の環境はあっているんじゃないですか。

 井箟: オリックスで投手コーチをしたコルボーンが大リーグ球団のコーチになり、私に本音を漏らしたことがあるんです。「日本では新聞が読めないし、自分に対する評価は気にならなかった。情報が入りやすい米国では批判や中傷が気になって仕方がない」と。イチローの場合は逆のことが言えるわけです。自分にマイナスなことは知らなくてすむ。野球に専念できる環境が大リーグでの素晴らしい成績につながっていると思います。


(03.9.1) 産経新聞