【8】 球界12年 言わせてもらいます
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オリックス前代表 井箟重慶さん
聞き手 村上敏彦記者

選手流出防止 −日米シリーズの実現を

 村上: 日本の打者で初めて大リーグに挑戦したイチローは今季、三年連続首位打者の偉業にチャレンジしています。これだけの大活躍を予測されましたか。

 井箟:イチローはヒットに関しては米国でも打てる自信を持ち、あとはパワー次第の気持ちを抱いていたようです。そのパワーについても日本にいるとき、ウエートトレーニングに力を入れ、そこそこの自信をつけていたと思います。キャンプ(宮古島)の打撃練習では十球打って八本ぐらいサク越えを放ち、その半分は場外という力強さを披露したこともありましたからね。彼の野球センスからしても、いまの成績はさほど不思議ではないでしょう。

 村上: イチローと同じオリックスから一年遅れて田口(カージナルス)も大リーグ挑戦で渡米しましたが、かなり苦戦しています。

 井箟: 日本から大リーグに行って通用するのは、レベルがうんと高い選手の話です。投手の場合は先駆者の野茂(ドジャース)を筆頭に成功者がけっこう多いが、打者の場合は厳しい。日本のトップクラスがみんな(大リーグで)やれるほど甘くはありません。今後はチャレンジしては帰ってくる繰り返しになると思います。ブーメラン現象というやつですよ。

 村上: 最近では吉井、マック両投手(ともにオリックス)がブーメラン現象で日本に帰ってきた例といえそうですが、米国では大リーグとファームの待遇は段違いと聞きます。

 井箟: 向こうのファームは、日本よりも待遇が悪いんです。遠征先の食事なんか、日本では二軍でもちゃんとした料理が提供されるが、米国の3Aではパンとサンドイッチの材料がテーブルに置いてあるだけ。それを自分で作って食べる。昨年、田口がアリゾナ・リーグで食あたりをしたんですが、出されたハムが古かったらしい。一緒に食べたドミニカの選手は死んでしまったという。それも金がなくて病院へ行ってなかったというんだから、哀れな話ですよ。

 村上: 米国の野球に挑戦する傾向が強まり、日本で実績のない選手のチャレンジも結構多いみたいですね。

 井箟: 日本のドラフトにかからない選手の場合、ブローカーに誘われて渡米するんです。向こうはファームから大リーグまで段階が多いので、それなりの受入先はあるが、最近、独立リーグのクラスから日本へ帰ってきた選手も五人、六人と増えている。夢と希望に燃えている若者には申し訳ないが、情報網の進んだ日本のドラフトの対象にならない選手が野球の本場で成功するはずがない。

 村上: そうなると、問題は日本の球界を代表する選手の流出ということになります。その防止策はあるんでしょうか。

 井箟: 日本選手の大リーグ志向は、自分の力を最高レベルで試したい気持ちのあらわれ。その思いを日本にとどまってかなえさせる方策は米国とのワールドシリーズしかない。これまで大リーグとの手合わせとしてはシーズン後の日米親善があるが、これは真剣勝負ではない。レベル的に時期尚早の問題があるにしてもワールドシリーズが実現すれば、流出にもある程度の歯止めがかかると思います。


(03.9.2) 産経新聞