【9】 球界12年 言わせてもらいます
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オリックス前代表 井箟重慶さん
聞き手 村上敏彦記者

新垣問題 −重い教訓 残したのに

 村上: 平成十年のドラフトでは新垣問題が起きました。沖縄水産高・新垣渚投手はダイエーの指名以外なら大学進学と表明していたが、オリックスが指名しました。獲得の自信はあったんですか。

 井箟: 新垣側とダイエーの間で指名の話がついていたことは承知していたが、ダイエー一本という意思表示は、本人よりも周囲の動きという情報をつかんでいた。プロ入りの意志はあるんだから、ウチが交渉権を手にすれば最終的には入団してくれる可能性が十分あるという判断で指名に踏み切ったわけです。当時の九州地区担当スカウトも、同じような感触を得ていました。

 村上: ダイエーとの競合でオリックスの一位指名を受けた新垣は、学校での会見で涙を流していました。

 井箟: テレビで会見を見たとき、私はフロント関係者に「あの涙はダイエーに指名されなかった悔し涙ではない」と言いました。周囲がダイエー一本で固まっていたので、(それに従って)オリックスの指名を蹴り、大学に進学することになれば、プロ入りが四年間はお預けになる。その間にケガ、故障などのアクシデントに見舞われるかもしれない。プロ入りできる保証はない。そんな不安感に襲われた無念の涙に映ったんです。

 村上: オリックスの三輪田勝利編成部長が自殺したのは入団交渉を拒否され続け、やっと新垣の自宅で新垣本人、父母と会うことが決まっていた当日の朝でした。

 井箟: 難航の末、交渉の窓口が開ける段取りになっていたんですからね。新垣側と会う約束をとりつけた後、短時間に一体、何があったのか、不可解なナゾです。三輪田君は銀行から金を出して果物を買い、手土産の準備までしていたんですから。私の口からひとつだけ言えることは、三輪田君が亡くなる直前に(新垣の)家族でもない関係者への高額な裏金問題で悩んでいたことです。

 村上: オリックスが入団交渉の継続を希望しながら、結局、新垣側の意向で交渉は打ち切りになったんですが、本人の真意は確認できたんですか。

 井箟: あの年のドラフト五位でオリックスに入団した徳元敏投手(東農大生産学部)は、高校は沖縄水産で新垣の先輩でした。その徳元が自分の入団が決まり、年が明けてから新垣に電話をしたら「どうしても、今年、プロに入りたかった」と言われたそうです。私が新垣の涙の会見で感じた通りでしたね。

 村上: 周りの大人が、高い評価を受けている少年に強い影響力を持ち、しかも金満球団ほど獲得経費として高額の裏金をつかう。それが当たり前のようになっているということですね。

 井箟: 命の犠牲者まで出たんだから、連盟か機構側が事の真相を調査するなど前向きの動きをしてほしかったが、静観のかたちで終わった。単にオリックス球団だけの問題とされ、球界全体の問題として受け止められず、改善策も講じられなかった。その後も裏金は自粛の方向どころか、ますますエスカレートしている感じだし、ベテランスカウトの死が何の教訓にもなっていないのは残念ですね。


(03.9.3) 産経新聞