【9】 小さな剛球投手 〜記録と記憶に生きて
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元阪急ブレーブス投手 山口高志さん
聞き手 村上敏彦記者

酒量気にせぬ度胸も必要!?

 村上: プロ八年間では日本シリーズも含めて王貞治、野村克也、張本勲らの大打者と対戦していますが、張本に三千本安打を許したのは山口さんでした。

 山口: プロ六年目で川崎球場のロッテ戦(昭和五十五年五月二十八日)でした。張本さんは、巨人からロッテへ移籍していたんですが、今でもはっきり記憶に残っています。(選手生活の晩年で)バットスイングのスピードはそんなに感じなかったが、ライトに見事なホームランを打たれたんです。

 村上: 一年目の五十年から四年連続二桁白星を挙げたが、五十四年は一勝〇敗六セーブに終わっていましたね。

 山口: 力勝負の本格派として行き詰まりを感じ始め、五十五年は技巧派になろうとしていたシーズンでした。アマ時代のストレート、カーブに加えてプロ三年目にスライダーを覚え、さらにシュートの本格的な練習をしていた時期。張本さんに打たれた球は、そのシュートの投げそこないで外角寄りに甘く入ったんです。

 村上: 日本球界で三千本安打は張本ひとりだから、球史に残る記録にかかわったことにもなります。

 山口: 張本さんが三千本安打を記録した後、川崎球場のライトスタンドには記念の標識版が立てられた。打たれた
ぼくの名前も入っていたが、川崎球場が(老朽化で)取り壊され、メモリアルがなくなってしまった。歴史に残る一発だから、張本さんは残念だったと思うし、それはぼくも同じですよ。

 村上: 現役時代、同世代の投手で印象に残っている選手は。

 山口: 同い年の東尾修(元西武)のタフさには驚きました。二十七、八歳のころ、西宮で試合がある日、お互いに登板予定がなく、練習終了後、一緒に大阪の北新地へ行ったんです。翌日、南海か近鉄戦で先発予定の東尾が酒をガンガン飲むので「前の日に大丈夫なのか?」と心配したら「これがガソリンや」と平然とした顔つき。翌日の夜は「きょうは完封で勝った。今、三宮で飲んでる」と電話をかけてきた。すごいヤツと感心しましたよ。

 村上: 酒豪といえば、山口さんも学生時代から飲めるクチでした。

 山口: ウイスキーなら、ボトル一本は飲んでいました。親父のような酒飲みにはなりたくないと思っていながら、それを上回る大酒飲みになってしまったが、登板する前の日はあまり飲まなかった。それなりに体調を考慮していたんです。
大成して長持ちするには、酒量を気にしない東尾くらいの度胸がないと、いかんのかなと思いましたね。

 村上: 昨年、日本ハムから阪神へ移籍した下柳剛投手も驚異的なスタミナを誇り、酒にも強いと聞いています。

 山口: 下柳が日本ハム時代、東京ドームで会い「すごいスタミナをしてるなあ」と声をかけると「毎日、日本酒にして五合は飲んでいる」と言っていました。若いときから登板数が多くても、好きな酒がエネルギー源になっているんでしょう。ぼくのモットーは「一生懸命」。その中には遊ぶことも含まれているが、東尾や下柳ぐらい豪快だったら、もっと長持ちしていたかも知れませんね(笑い)。

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阪急への入団契約後の一こま。新人の年から4年連続で2けた勝利を挙げた  ※(写真略)


(04.2.12) 産経新聞